腫瘍科
乳腺腫瘍
中高齢の未避妊雌に多く発生します。犬では良性と悪性の比率は1:1(小型犬はこれよりも良性の可能性が高い)、早期の避妊手術を実施することで発生率を下げることができます。猫は悪性腫瘍の確率が80〜90%と言われており、乳腺腫瘍切除後の再発が多くみられ、複数回の手術を行うこともあります。
症状 | 乳腺領域にしこりができます。犬は尾側の乳腺に多く発生します。 |
原因 |
雌性ホルモンと関連があります。初回発情前に避妊手術を行うと未避妊雌と比べると乳腺腫瘍の発生率は0.5%、2回目の発情までだと8%、2回目の発情以降だと26%になります。 |
診断 |
触診を行います。乳腺腫瘍以外の腫瘍も発生することもあるため、針生検(しこりに針を刺して腫瘍細胞があるか調べる検査)を行うことがあります。 |
治療 |
炎症性乳癌(非常に悪性度の高い乳腺腫瘍)以外は手術を行います。特に腫瘍の大きさは今後の生存期間に影響しますので早期の手術が推奨されます。 |
リンパ腫
全身のリンパ節や肝臓、脾臓などの臓器に由来するリンパ系細胞の腫瘍です。腫瘍の発生部位から多中心型、前縦隔型、消化器型、節外型に分かれます。写真は猫の鼻に発生したリンパ腫です。
症状 | 発生部位によって異なります。体表リンパ節の腫脹、呼吸困難、下痢嘔吐、皮膚や眼に症状がでることもあります。 |
原因 |
本質的な原因は不明です。 |
診断 |
発生部位によって異なりますが、針生検で診断できる場合もあります。診断がつかない場合は病変を少し切り取り、病理検査に依頼します。 |
治療 |
発生部位によっては手術、放射線治療を行う場合もありますが、基本的には抗癌剤で治療します。 |
肥満細胞腫
多くみられる腫瘍で、犬は皮膚に発生しやすく、猫では皮膚と内臓にほぼ同程度の発生率です。腫瘍の悪性度(グレード)により予後が大きく異なるため、病理組織検査行い悪性度(グレード)を調べることが重要です。
症状 | 発生部位で異なりますが、皮膚では腫脹、発赤、消化器では嘔吐、食欲不振、黒色便などがみられます。 |
原因 |
原因は不明ですが、c-kitという遺伝子の変異が肥満細胞腫の発生に関わっていると報告されています。 |
診断 |
針生検で診断できる場合もあります。診断がつかない時は組織検査(腫瘍組織を一部切取り、検査機関に提出)を行います。また、全身状態、転移がないかを調べるため血液検査、レントゲン検査、エコー検査などを行います。 |
治療 |
手術を行います。悪性度が高い、転移が認められる場合などは抗癌剤も併用します。抗癌剤は注射と飲み薬があります。近年では副作用が比較的少ない飲み薬も開発されたため、その薬を使用する場合もあります。 |
口腔内腫瘍
口腔内に発生する悪性腫瘍は発生の多い順から悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、繊維肉腫があります。良性腫瘍の場合もありますが、悪性腫瘍も多いため針生検、組織検査をお薦めします。
症状 | 食欲不振、口臭、出血などがみられます。顔の形が変わるほど腫瘍が大きくなる場合もあります。 |
原因 |
原因は不明ですが、コッカ―・スパニエル、プードル、大型犬に多く発生します。 |
診断 |
針生検、組織生検を行います。嫌がることが多いため、鎮静をかける場合があります。また、顎の骨が解けていないか、転移がないか調べるためレントゲン検査、エコー検査、全身状態をみるため血液検査などを行います。 |
治療 |
悪性腫瘍の場合は顎の骨も含めた腫瘍切除を行います。再発、転移を防ぐため抗癌剤を併用することもあります。巨大な腫瘍で手術で取り切れない場合は放射線治療を行う場合もあります。 |
血管肉腫
脾臓に多くできる悪性腫瘍として、血管肉腫があげられます。転移率が高く、主な転移先としては肝臓、心臓(右心房)があります。血管肉腫はとても脆く破裂して出血を起こすことがあります。転移したり、破裂する前に手術で取り除くことが重要です。
症状 | 発生部位で異なりますが、元気・食欲の低下、お腹が膨れていたり、腫瘍が破裂して体腔内出血が起こりショック症状を呈することがあります。 |
原因 |
不明です。脾臓に発生する腫瘍の場合、半分は悪性で、その内の約2/3が血管肉腫と言われています。 |
診断 |
全身状態をみるための血液検査、血管肉腫の場合、不整脈が起こりやすくなるため心電図検査、ショックを起こしていないか調べるための血圧測定、転移がないかレントゲン検査、エコー検査、出血傾向がないか血液凝固検査を行います。CT検査が必要な場合もあります。 血管肉腫は非常に脆く、出血しやすいため他の腫瘍のように針生検や組織生検を行うと出血を引き起こしてしまうため、最終的な診断は手術で取り除いた腫瘍を組織検査することで下します。 |
治療 |
脾臓に発生した場合、手術が推奨されます。しかし、血管肉腫における手術は根治的手術ではなく体腔内出血を避けるための緩和手術になります。血管肉腫は転移率が高いため、手術で腫瘍を取り除いても長期生存は見込めません。生存期間中央値は無治療の場合約1ヶ月、手術のみの場合約3ヵ月、手術+抗癌剤で約6ヶ月です。 |